以下の読書日記は『静岡の高校生活指導』31集の「書評」からの再録です。
○ 『Das kurze Leben der Sophie Scholl』(Hermann Vinke/Revensburger/5.5euro)
数年前にドイツのアマゾンからネットで注文したドイツ語の本。以前に二度ほど読んだが、あえて書評を書くのは、映画『ゾフィー・ショル─最後の日々(仮題)』が2006年に日本で上映される(はずだ)からである。是非、映画を観たい。
20年近くまえ『白バラは死なず』というドイツ映画が上映され、わたしも藤枝市で自主上映会を開いたが、その時の古い映画のDVDが現在ドイツで出ている(たぶん新しい映画のDVDの発行に乗じたものと思われる。日本語版は出てないので、新しい映画の日本での上映をきっかけに古い映画と新しい映画の二つのDVDの日本語版が出てほしい)。
古い映画『白バラは死なず』の題は未来社から現在も出版されている『白バラは散らず』(インゲ・ショル/未来社)に拠ったものである。この書物の生命は長い。初版が1964年である。さらにいうと郁文堂から出ているドイツ語の対訳叢書『湖畔(インメンゼー)』(シュトルム)は初版が1954年で、現在も出版されている。浜松の駅ビルの本屋で見つけた。この有為転変の世の中でわたしが生まれる前からまだ発行されつづけている本があるとは驚きだし、なにかうれしい。
ゾフィー・ショルはドイツの良心とも呼ばれたショル兄妹の妹。兄はハンス。二人はミュンヘン大学生で、ナチスドイツに対するレジスタンス運動を組織した。秘かに地下通信『白バラ』を発行し、ナチス支配のドイツに「普通の市民」によるレジスタンスの存在を知らせた。
本書は『ゾフィー・ショルの短い生涯』という題で、妹のゾフィーの生涯をまとめたペーパーバックである。現在、映画『ゾフィー・ショル─最後の日々』を扱った書物もドイツで出版されている。手に入れたが、500ページに近い本なのでとても紹介できない(読めない)。本書は220ページほどで活字もでかいし見やすい二色刷である。邦訳もあるが絶版らしい。『ヒトラーに抗した白いバラ ゾフィー21歳』(ヘルマン・フィンケ/若林ひとみ訳/草風館)。文庫本でも出版されたらしいが不明。
本書を読むと、ゾフィーは思慮深く多感で、絵画や自然を愛する、水泳も好きな普通の女の子のようだ。どちらかというと芸術家肌だが、芸術的な素養はどうも当時のドイツ中流家庭のふつうの教養だったのかもしれない。
この書物を読むと、ナチスドイツ下における学生生活のありようがよく分かる。大学受験のためにはしばらくドイツ帝国勤労奉仕団で働くことが義務づけられていた。なんとなく「ボランティア」や「インターンシップ」を勧める(暗に強要する?)現在の日本の学校教育と重なってくる。
さらにこのような記述がある、
「ヒトラー・ユーゲント(ナチス少年団)に入っていなかったオトルが、アビトゥア(大学入学資格試験)の直前に学校(高校)側が強要したヒトラー・ユーゲントへの加入を断ったことは、私たちには大きなショックでした」。
たぶん、ヒトラー・ユーゲントに入らないと、アビトゥアを受けれなくなるか、受けても不利になるのだろう。学校教育が軍事国家の先兵となるシステムなのは、戦前の日本もナチスドイツも、さらに現在の日本も同じなのだろうなと思った。
ショル兄妹をふくめて多数の白バラ団はゲシュタポに捕らえられてしまう。ゾフィーの最後の様子など、本書に詳しい。清冽な印象を受ける。
ちなみに白バラ関係の書物をわたしは集めている(30冊弱)が、現在の日本ではほとんど出版されていない。ドイツでは新しい書物が常に出版されている。映画をきっかけに日本でも復刊・新刊が望まれる。
上の写真を見ると、素敵な女性だったんだなと思う。
上の写真は昔の映画『白バラは死なず』のパンフレットです。
上の写真は新しい映画『ゾフィー・ショル 最後の日々』のDVDです。